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店長営業日誌

高級店より、大阪のめんどくさいオバチャンのいる店の方が好きだ

誰にでもお気に入りの店はあるはず。
今は東京に住んでいるので、滅多に行ってないけど、大学の時に週3ぐらいで通っていた店があった。

店先には赤い提灯がぶら下がっていて、いかにも「昭和の飲み屋」って感じの店で、普通の大学生ならまず入りたいと思わない。
ボクも初めては応援団の先輩に連れられてだった。

カウンターの中には還暦近いオバチャンがひとりで立っていて、お酒を注いでくれたり、手料理を作ってくれたりする。
味は普通。
値段の基準はよくわからんが、夜店で300円で売ってそうな普通の焼きそばが600円とかだった。

 

進化したオバチャンのみが使える技があるらしい

オバチャンはもう30年くらい同じ場所で店をやっている。
なんというか、もう主みたいな迫力を持っているので、普通の飲食店ならあり得ない技を当たり前に使ってくる。

必殺技その1「営業電話」

基本的に店はそんなに流行ってない。
常連客がほとんどで新規客が来ないからだ。
なのでヒマな日はめっちゃ電話がかかってくる。

「めっちゃヒマやねん〜。はよ来てくれな店つぶれてまうわ〜」

こんな電話が週に1回はある。
キャバクラか!ここは!
まだ綺麗なお姉さんが楽しませてくれるなら納得出来るが、この店にいるのはちょっと眠たそうなオバチャンである。

正直、ちょっとめんどくさいのだが、行かないともっとめんどくさいことになる。
ちなみに、年中閉店セールの看板を掲げている店と同じで、つぶれたことはない。

 

必殺技その2「悪口」

店に行かないと先輩に悪口を吹き込まれてしまう。

「最近、あのコ、やる気ないんと違うか〜。感じ悪いわ〜」

そして次の練習の時に先輩からめっちゃ怒られるハメになる。
ホンマ勘弁っすわ。
恐怖による常連客囲い込みという新手のマーケティング。

 

必殺技その3「パシリ」

そんな店でもたまにめっちゃ混雑する時がある。
カウンターだけの小さな店なので、席がなくなると年功序列で若い者から立たされる。
そして、忙しくなってひとりで店が回らなくなると、カウンターの中に招き入れられる。

「アンタ、ヒマやったらちょっと氷買うてきて!」

ヒマっちゅうか、客なんすけど。

 

必殺技その4「強制閉店」

もうおばあちゃんに近いオバチャンなので夜はあまり強くない。
10時ぐらいを過ぎてくるとやたら帰りたいオーラを出してくる。

それでも粘ろうとすると
「もう早よ帰って!今日は閉店!」
店を追い出される。

大好きな麻雀で徹マンやる時はあんなに朝まで元気なのに。
不思議である。

 

オバチャンとともに過ごした4年間

以上のように客に対して不親切きわまりない店にも関わらず、通い続けていた。

それは、やっぱあのオバチャンがいたからだ。
結局なんやかんやで、大学4年間通い続けた。
先輩からボッコボコに怒られた時、愚痴を聞いてくれた。
大事な試合に勝った時、一緒に喜んでくれた。
同期とケンカした時も店で話し合ったし、後輩が初めてできた時も店に連れて行った。

団長になった時に1番にほめてくれたのもオバチャンである。

応援団というボクの濃過ぎる大学生活を見守り続けてくれたのはオバチャンだった。
初めて行ったのは入学式の夜だったし、卒業式の日ももちろん行ったから、本当に丸々4年間だ。
団史上初の海外応援をやった時に、記念撮影をした写真を印刷して持って行ったら、その場で店に飾ってくれた。

この前、5年ぶりぐらいに店に行ったら、その写真は同じ場所にそのまま飾られてあった。
もう還暦は越えてしまったけど、相変わらずオバチャンはカウンターの中で笑っていた。

「あら〜久しぶりやん。もう来てくれへんのかと思ったわ〜」

 

名物オバチャンが教えてくれたこと

今自分で飲食をやるようになって考えること。
料理はおいしい、店がきれい。
そんなん当たり前。

大事なんはやっぱり「人」

「人」は店に宿る「魂」なんや。
「魂」こもってない店は魅力を感じない。
そんな形だけの店、やる必要ないよ。

選ばれる店を作る前にまず、自分が選ばれる人にならなきゃだな。

うん。
今度大阪に帰ったら、やっぱりあの店に行ってしまうんやろな。
そういう店をボクもやりたい。